HOME>世界農業遺産「能登の里山里海」ライブラリー>農林水産業>農業>能登野菜 (1ページ目) 農林水産業>農業能登野菜 (1ページ目)(1)概要及びGIAHS的価値について里山は、人々が生活を営む集落とその周りに広がる畑や水田、それらを取り巻く雑木林などからなり、人が適度に手を入れることでその環境が維持されてきた。 近年、里山のこの持続可能な生産システムは、2010年(平成22年)10月、愛知県名古屋市で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」での「SATOYAMAイニシアティブ」の推進決議や、2011年(平成23年)、国連食糧農業機関(FAO)による「能登の里山里海」の世界農業遺産認定など、国際的に高い評価を受けているほか、生産者、消費者双方から大きな関心を集めている。
戦後、急速に農業の近代化が広まったが、 能登では、伝統的な農業・農法、農村文化や生物多様性、農村景観などがシステムとして一体的にうまく維持・保全されてきた。これは、現代においては、農産物の付加価値向上や交流人口の拡大、地域の農業・農村の活性化などに資する大きな力を秘めている。
さらに、能登では、祭りや仏事・神事などの伝統行事とともに、伝統料理も数多く継承され、今日に至るも盛んに作られている。これらの料理や伝統の味を支えてきたのは、自家用として栽培されてきた種々の在来の伝統野菜であり、これらの伝統野菜の種を絶やさずに栽培を続けていくことは、能登独特の豊かな食文化を継承していくためにも欠かすことはできない。
写真 祭りの時のヨバレ料理
(2)背景(経緯〜現状)「能登野菜」とは、能登の風土を生かした生産が行われ、優れた特長・品質を有する野菜の中から、能登野菜振興協議会によって認定された17種を指し(平成30年12月現在)、栽培に30年以上の歴史のある「中島菜」、「沢野ごぼう」、「金糸瓜」、「神子原くわい」、「小菊かぼちゃ」、「かもうり」、「唐川菜」の7種の「能登伝統野菜」と、広く流通・栽培されている「能登かぼちゃ」、「能登赤土馬鈴薯」、「能登山菜」、「能登白ねぎ」、「能登すいか」、「能登金時」、「能登ミニトマト」、「能登長なす」、「能登だいこん」、「能登ブロッコリー」の10種の「能登特産野菜」の総称である。
このうち「能登伝統野菜」は、能登独自の食文化と深い関わりがあり、「能登特産野菜」は、農業の活性化と農村景観の保全に果たす役割が大きい。 現在、両者をあわせた「能登野菜」のブランド化が進められており、厳しい品質管理のもと、付加価値を高めることで、能登の農業の可能性や将来性を高めていく試みがなされている。
また、能登では、「能登野菜」に認定されている17種に限らず、自家採種による、在来の野菜をはじめとした多くの種類の野菜が栽培されている。三方を海に囲まれ、夏は涼しい海洋性気候と赤土に代表される粘りが強い土壌が、独特な風味があり美味しい野菜を育んでいる。
「能登野菜」の認定については、下記のような規定がある。 能登野菜の認定規定【共通事項】 能登の風土を活かした生産が行われ、優れた特長・品質を有する野菜 ○能登地区(JAはくい以北)のJA組合員が栽培し、能登地区(宝達志水町以北)で栽培されていること ○明文化された栽培協定・指針を実践し、栽培履歴が記帳・整理されていること
【能登伝統野菜】 能登の伝統食などに育まれ、古くから栽培されている野菜
【能登特産野菜】 能登を代表する野菜として、今後とも、生産・販売の拡大を進めていく野菜
また、出荷に際しては次の留意点がある。 能登野菜の出荷における留意点○品質、規格の統一ができていること ○生産計画が樹立され、計画的な生産出荷が励行されていること
(3)特徴的な知恵や技術「能登野菜」には、健康増進や生活習慣病の改善に効果が高いとされる種も多い。また、生産部会が組織され、栽培のスキルアップがはかられており、土壌、気候のほか、栽培技術によっても、同じ品種でもより良い食味のものを作りだそうと試みられている。 また、ブランド化という新たな価値づけにより、生産者の意識が変わり、栽培振興がはかられることで、地域に伝わる野菜づくりに関する知恵の伝承もより行われやすくなっている。
@能登伝統野菜・中島菜(なかじまな)春先の野菜で、ツケナ類の一種で葉に刻みがあるのが特徴。来歴は不明だが、七尾市旧中島町で明治時代から小規模に栽培されており、おひたしや漬け物にして各家庭で食されてきた。石川県立大学と石川県農林総合研究センターの研究により、血圧上昇に作用するアンジオテンシンI変換酵素を阻害するペプチドが含まれることが確認されており、血圧上昇抑制効果が期待されている。平成18年11月、農産物では県内で最も早く地域団体商標を取得。栽培場所は、七尾市、中能登町。出荷時期は、11月〜4月(主な出荷時期は11月と3月)。
・沢野ごぼう(さわのごぼう)七尾市崎山半島の中山間地域、沢野地区周辺で栽培されている伝統食材で、普通のごぼうに比べ約3倍の太さがあり、香りの良さと、スジがなくサクサクした歯ざわりと食感が特徴。約350年前に地区の神社の神主が、京都から伝わった種を栽培したのが始まりで、加賀藩の献上品として将軍家に献上されていた。
酢ごぼう、きんぴら、かき揚げなどの一般的なごぼう料理のほか、ぶつ切りにしたごぼうを7日7晩炊きあげた「七日炊き」、蒸し焼きにしたごぼうをたたきほぐした「叩きごぼう」などの伝統料理がある。さらに、近年は、パウダーに加工してクッキー等の菓子類に用いられているほか、ごぼう丼などの創作料理も盛んに作られている。また、ごぼう掘り体験なども行われている。
出荷時期は10〜11月。カルシウム、リンなどの無機質、ビタミンB1、B2が含まれ、食物繊維やポリフェノールが豊富で、腸の働きを良くし、美肌効果・老化防止などに有効な食物といわれる。地域団体商標を取得。
・金糸瓜(きんしうり)19世紀末、中国から導入された「覚糸うり(かくしうり)」が、「金糸うり」「そうめんうり」「なますうり」の名前で各地に広まり、栽培が始まった。輪切りにして茹でると果肉がほぐれて糸状になり、シャキシャキとした食感がある。中能登地区では、いつ頃から栽培が始まったかは定かではないが、報恩講料理(仏事料理)として古くから地域に定着している。現在も、主に自家用野菜として中能登の風土に根づいている。
栽培場所は、中能登町・七尾市。出荷時期は7月〜8月(12月頃まで保存できる) 。夏の暑い時期には、シャキシャキした歯ごたえが食欲を増進させる。また、水分含量が高いことから利尿作用がある。果実を皮付きのまま4〜5つに輪切りにし、沸騰したお湯で湯がき(電子レンジで4分加熱してもよい)、果肉を金糸状にほぐして冷やし、酢の物や和え物にする。その他、かす漬、味噌漬のほか、パスタとしても利用されている。
・神子原くわい(みこはらくわい)昭和50年代、羽咋市の標高120mの中山間地域、神子原(みこはら)地区周辺の棚田に転作作物として導入され、「そば」とともに特産農産物に位置づけられ、栽培の振興がはかられている。おせち料理の食材として県内市場へ出荷されており、現在、金沢中央卸売市場の取扱量の約9割を占める。大量生産はできず、豊かな自然の中、澄んだ山水と粘土質の土壌でじっくり育てる。出荷時期は12月上旬〜下旬。煮物のほか揚げ物にしても良い。
ミネラルが豊富で、特にカリウムは、野菜の中でも多く含まれている。カリウムは、熱を加えてもほとんど消失しないので、煮物料理で摂取することができる。また、カリウムは体内の余分な塩分を体外へ排出する機能があり、高血圧の予防に効果があるといわれる。
・小菊かぼちゃ(こぎくかぼちゃ)昭和40年代半ば、七尾市旧中島町で転作を契機に栽培が始められた。直径15cm程度と小型のかぼちゃで、粘質で濃黄色の果肉。真上から見ると菊花に似ていることからこの名前が付いた。小豆煮やそぼろ煮のほか、近年はコロッケなどにも利用されている。独特のさわやかな風味が、淡泊な味付けの和食に適することから、割烹などの需要も多い。ビタミンC、カロチンを豊富に含む。 栽培場所は、七尾市・中能登町一円。出荷時期は7〜8月。
・かもうり自家用野菜として30年以上前から栽培され、中能登地域の食文化として定着。果実は長円筒形で、重量は7kg程度。収穫期には白粉で包まれる。適熟で収穫することにより、果肉が厚くなり保存性に優れる。淡泊な風味は、だしを効かせた味付けに合い、和食に適している。果肉は水分が96%と多く、利尿作用が高い。体の抵抗力を高めるビタミンCを多く含み、風邪の予防や治療に役立つとされている。ナトリウムの摂り過ぎによる高血圧、脱力感、食欲不振などを防ぐとされるカリウムも多く含まれている。栽培場所は七尾市、中能登町一円。出荷時期 は7〜8月(冬期間まで保存が可能)。
・唐川菜(からこな)穴水町下唐川集落で昔から作られているカラシナ在来種で来歴は不明である。これまで数軒の住民が畑の片隅で育てているほか、民家の周辺や道端、土手に半野生化して生えており、全て自家消費されていた。春先にさっと湯がいて白菜とともに一夜漬けとするほか、汁物の具材としても使われている。集落の春祭り「だごだい祭り」の御膳には必ず供されるなど神事と密接に繋がり、伝統食としても受け継がれている。栽培場所は穴水町。出荷時期 は3〜4月上旬。
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